2012年4月21日土曜日

オリンパス、株主総会で新体制を承認

2012/04/20(金)、オリンパスは都内で臨時株主総会を開催した。

2012/04/21(土)の日経9面が伝えている。
が、これだけのスペースを割いている割には、こちらに伝わってくる事実は少ない。


問われる統治の実効性

との見出しを付けているが、
記者の想定する具体的中身は、記事からは明らかではない。

国内企業の多くが社外取締役が社内取締役を、数で上回る状況を示し、

「形式だけでなく、実効性ある企業統治の確立が欠かせない」
と記者は主張する。
さらに、企業法務専門の弁護士の意見を引き、
企業統治が機能するには
「執行部が取締役会に上げる情報を恣意的にコントロールできないよう、
明確なルールが必要」である

と記している。

200字以上を使って、このような大学生にも書けそうな内容にとどまっている。
「企業の法令遵守に詳しい」山口利昭弁護士は、
記事になりそうなネタとして、本当にこれぐらいの当たり前の話しかしなかったのか?

さらには、著名な久保利英明弁護士の発言も引用している。
こちらは、
「ガバナンスの確立は、経営陣の保身のためではなく投資家のために必要」
ということらしいが、
これまた、こんな高校生でもできそうな発言しか、見るべき発言はなかったのか?

この記事から、読者として抽出すべき事実は以下の通り

・オリンパスで臨時株主総会が開催され、
 取締役の選任、過去の決算訂正など7議案が可決された

・新取締役11人のうち、8名が社外取締役であり、
 社外取締役のうち2名は取引銀行出身である

・オリンパスの昨年末時点での自己資本比率は4%台である

・4月20日のオリンパス株は前日比6%高で引けた

日経が見出しに掲げる「統治の実効性」うんぬんの論旨展開は行ったり来たりで、
非常に把握しにくい。各段落ごとに、主張内容がまとめられてはおらず、
全体で何を言いたいのかわからない。

最期に、ウッドフォード元社長が、株主総会無効確認訴訟の提起を検討中である、
との事実は少し興味を惹かれる。

ウッドフォード氏は、総会の無効原因として会社法314条違反を上げているらしい。

会社法314条は、株主総会における取締役の説明義務を定める。
同条本文を抜粋すると、
「取締役は、特定の事項について株主から説明を求められた場合には、
当該事項について必要な説明をしなければならない。」とある。

これは会社法314条という「法律」で定められた義務なので、
義務を果たさなかったと思料される場合には、
会社法830条2項によって株主総会決議無効確認の訴えを提起することができる。

会社法830条2項
株主総会等の決議については、
決議の内容が法令に違反することを理由として、
決議が無効であることの確認を、
訴えをもって請求することができる。

オリンパスの取締役が、臨時株主総会において、
ウッドフォード氏の説明要求に対して、
会社法314条にいう「必要な説明」を尽くしたかどうかが問われる。
必要な説明」にはあたらないのであれば、「決議の内容が法令に違反する」
ということになり、
決議無効確認請求訴訟は認容されることになる。

必要な説明」であるかどうかという点は、程度問題である。
難しく言い換えれば、規範的な評価を必要とする概念である。
一つの参考になる裁判例として、東京高裁の判断がある(東京高判昭和61.2.19)。

「株主が会議の目的事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲の説明」
であれば足りる

とされている。
補足すると、一般的な株主が合理的に判断を下しうるに足ると客観的に認められる
ような説明であれば「必要な説明」が尽くされたといってよい、という基準を示している。

今回のオリンパスの総会の場合に関連して、重要だと思われる点は、
ウッドフォード氏のような経営の専門家の目線ではなく、
一般的な株主の目線で考えて、客観的に説明が十分といえるかどうか
が問われるというところである。

この点を伺うには、ウッドフォード氏が提出したとされる事前質問書の具体的内容と、
当日行われた臨時株主総会の具体的進行や
取締役の説明内容の詳細を見なければならない。

高校生や大学生でも指摘できる抽象的な論点提示よりも、
当日行われた具体的やり取りについて詳細に記事にしていただきたいものだ。

「形式だけでなく、実効性ある記事内容が欠かせない」
形式的な自社の主張のみに終始するのではなく、
読者に実りある情報を提供する基盤を確立していただきたい。

まさに、問われる日経記事の実効性、である。

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