2012年4月23日月曜日

ネット社会における新聞の危機 軽減税率適用?


思想の自由市場

自由で民主的な社会が存立していくためには、
情報が自由に流通して、その情報をもとに、
人々が物事を考えたり社会の動きを知ったりできることが不可欠だ。
憲法の教科書には、上記の重要性を指して、「思想の自由市場」という言葉が用いられる。

消費税率の高いヨーロッパ諸国では、
生活必需品である食料品や生命に直結する医療と並んで、
軽減税率の適用対象として、はたまた非課税の対象として、
新聞・書籍などの情報媒体が上げられているという。

新聞は税率優遇の対象たりうるか?

今後、消費税論議が具体化されていくにつれて、
間違いなく予想されるのは、
新聞メディアの衰退を防ぐために是非とも軽減税率の適用が必要だ、
あるいは非課税品目にすべきだとの論調が高まっていくということである。
なお、この論調を積極的に高めていくのは、新聞メディア自身であろう。

その際に、彼らが主張することが予想される論拠は
以下のものが上げられるだろう。

①新聞は公権力を監視する法規制のない自由なマスメディアとして伝統がある

②一覧性のある新聞は、媒体に接する者が関心を持つ情報以外も
 見出しによる軽重を含めて、接することができる媒体である

③ネットユーザーは新聞情報と突き合わせて真偽を見極めているのが実状だから、
 ネット社会でも新聞の果たす役割はいささかも低下しない

想定される論拠に対する反論

①に対して

長年にわたって庶民に情報を届けてきた極めて有力なマスメディアであったことは認める。
しかし、
「公権力を監視する法規制のない自由なメディア」という特質を備えたメディア
を上げるならば、現時点においては新聞だけではない。
言うまでもなく、インターネットの存在が上げられるが、
この新たな勢力ともいうべきインターネットに対する規制法案ともなり得る
人権侵害救済法案について、新聞報道がほとんどなされていない点をみると、
今や、新聞は「公権力を監視する」メディアの役割を完全に放棄している
と言わざるを得ない。
よって、
①の論拠から正味の部分だけを取り出すと、
新聞には伝統があるという事実しか残らない。

②に対して

ネットに接する場合にも、「見出しによる軽重」に代替し得る使い方は考えられる。
検索ワードの上昇率や、投稿される記事の量、その他の指標によって、
媒体に接する者は、自らの関心事以外の情報も得ることができるし、
実際に多くのネット利用者は、そのような利用法を用いている。
ネットユーザーが特定の関心事項しか検索窓に打ち込まない
という認識は、事実誤認も甚だしい。
よって、②の点で論拠となりうる事実は、
単に「新聞は、広げて読むスペースがあれば、広げて読める」ということである。

③に対して

ネットユーザーは新聞情報と突き合わせて真偽を見極めている。
その通りである。
賢いネットユーザーは、新聞の提示する主張を、懐疑的に、批判的に眺める。
一つ一つの社説に対して、批判点を個別具体的に上げて、
情報共有を図るブログも多数設置されている状況である。
そのような作業の前提として、実際の新聞紙面にあたる必要は認められる。
しかし、
そのために新聞紙を定期購読する必要性は全くない。
喫茶店や理髪店などの準公共的な空間であっても新聞紙面に触れることは可能である。
デフレ解消のためには、そうした準公共空間が賑わいを取り戻すことのほうが重要である
とすら言える。

結論

論拠①~③は極めて説得力に欠けるか、
全くの事実誤認に基づくものでしかない。

普段は既得権益を解体せよと声高に叫ぶ新聞大手は、
こと自らの既得権となると急激に声量を下げるのはいかがなものか。

まして、新たな権益獲得のため、
産経新聞を除く大手紙は消費税増税に諸手を挙げて賛成のように見受けられるが、
そのような論調を採っておいて、
自社の税率だけはそのまま、あるいは、税率を下げてもらおうと画策するのは、
まさに公共性に反する行為であると思われる。

首尾良く軽減税率を勝ち取ったとしても、残る結果は新聞の衰退であろう。
国民は大手紙が思うほど愚かではない。

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