2012年5月5日土曜日

衝突防止装置の設置義務づけと規制緩和

ゴールデンウィークの満席のツアーバスは、我が目を疑う状況で関越自動車道の路側帯を占拠していた。この群馬県藤岡市の関越自動車道の高速ツアーバス事故を受けて、国交省は高速バスに衝突防止装置の設置を義務づける方針を固めたようだ。

「高速ツアーバス」とは?

高速バスには、大きく分けて2つの形態がある。
一つは、高速路線バスと呼ばれる形態である。バス会社が事前に行政庁から路線認可を受け、距離や時間などの運行計画を届け出る運行形態である。
もう一つの形態が、
今回の事故が起こった「高速ツアーバス」という運行形態である。
これは、旅行会社が企画・募集し、運転手ともども貸し切りバス会社からバスをチャーターして運行するという形態である。路線バスと異なり、認可を受けるという手間や各種の届け出も不要である。

この「高速ツアーバス」という形態は、国の規制緩和方針を機に、近年増加している。不定期に開催される、○○食べ尽くしツアーなどの文字が、夕刊の広告欄を占拠しているのを目にする機会が格段に増えた。こうしたツアーバスの利用者は、2005年には約21万人であったのが、2010年には約600万人に急増している。

こうして急激に市場が拡大しているにもかかわらず、国の規制は緩い。ということは、この市場には旨みが大きいということで、続々と新規参入者が現れる。規制の緩い市場では、新規参入も容易であるし利益も上げやすい。短期間で利益を上げて、儲けが少なくなってくれば即時に撤退するという手段もとりやすい。そして、大きく固定費を削れる部分といえば、やはり運転手の人件費である。こうして、手っ取り早く利益を上げようとすれば、運転手に泣いてもらうのが最も簡単だということになる。

衝突防止装置によって悲劇は防げるか?
トラック業界の場合、多くの自動車メーカーは既に衝突防止装置を備えた車両を販売しているものの、その車両価格は通常の車両より30万~50万円ほど高く、普及率は3%にとどまるという。バス車両の業界で同様の装置を搭載するバスを販売しているのは現段階で1社だけだとされる。
ということは、
このような装置の設置を義務づけるといっても、対応した車両の供給は追いつかないことが目に見えている。
さらに、トラックと異なり、バスは乗客を乗せて走る。衝突防止装置によって急ブレーキがかかると、乗客に及ぶ悪影響を考慮せざるを得ない。
すなわち、インフラ供給体制の不備と、乗客の安全を考慮すると、
衝突防止装置による対応には限界があるのは明らかだ。

今回のような事故を防ぐためには、運転手の労働実態を正確に規制官庁が把握できるようにする措置を講ずるべきである。高速バスに対して車両の速度や運転時間などを計測するデジタル運行記録計の装着を義務づけ、運転手各人毎の記録を規制官庁の側が適宜収集できるようシステム化する必要がある。

規制権限を持っているにもかかわらず、真に有効・適切な規制を施そうとしないのであれば、
規制権限不行使という不作為の違法によって、国土交通省は厳しく糾弾されるべきだ。

そして、そのような適切な防止策を検討する論調にシフトしない大手マスコミも同様に糾弾されるべきである。

規制緩和による競争激化と生命・身体の安全

大手マスコミが金科玉条のように掲げる「構造改革」や「規制改革」なる掛け声の果てには、信じられない姿のバスを目の当たりにするという厳しい現実がある。特に、デフレ経済の状況下で、規制改革によって競争を煽れば、ただでさえ少ない需要を、多くの供給者が死に者狂いで奪い合うことになる。

公共交通機関の使命は、「乗客を安全に目的地に運ぶ」ことにある。
大手マスコミは、社会の公器を自認するのであれば、無謀なスローガンを掲げて、庶民の生命・身体に危害を加えるような論評は厳に慎む必要があるだろう。
社会の公器とのたまうマスコミの使命は、「読者・視聴者を適切な論点に導く」ことにある。

○○食べ尽くしツアーなる、近時急増した高速バスツアーの広告の多くは、大手紙夕刊の広告面に記載されている。そうでありながら、事故を起こしたバス会社を批判し、国の規制方針を批判する社説をみつけると、真に規制緩和が必要なのは大手マスコミであるとの念を強くせざるを得ない。

1 件のコメント:

  1. さらに、トラックと異なり、バスは乗客を乗せて走る。衝突防止装置によって急ブレーキがかかると、乗客に及ぶ悪影響を考慮せざるを得ないとのご意見ですが、事故による被害と天秤にかければ防止装置の設置義務が急務と思いました。

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